日本企業の「失敗の本質」
(2025年10月14日 09:00) カテゴリー:所長通信近年 誰もが知っている有名企業で数々の不正が発生しています
ことが起こってからニュースなどの解説を見ると 大きな組織になって規則やルールが形骸化していたらしい
とわかったような気になったりします
日本軍の敗戦の要因を解明した「失敗の本質」という名著があったことを思い出し
昔この本がもてはやされ 多くの企業経営者がバイブルのように読んでいたのは何だったのかなどと思ったりしていたところ
この本の著者のお一人である野中郁次郎先生のこの件に関するインタビュー記事を見つけました
曰く
バブル崩壊後の30年余りの間で 日本企業が自信を失い 救世主のように欧米流の合理主義的経営手法を導入したことによって
経営という世界の「数学化」が起こってしまった という事だそうです
すなわち 数字で記載された成果を上げるためには 細かな経営計画を策定し それぞれの結果に対する要因を分析し 事故やトラブルが起こらないようにしっかり統制する
というような経営管理が行われてきたと観察されています
その結果 これらが行き過ぎて「オーバー・プランニング」(計画過剰」「オーバー・アナリシス」(分析過剰)「オーバー・コンプライアンス」(統制過剰)になってしまったという事で
これらの過剰によって現場は疲弊し 人々の持つ創造力や野生を劣化させてしまったと言われています
マイクロマネジメントになると従業員が指示待ちになり 創意工夫せず 想定外の事態が起こっても機動的に対応しない
小さな違和感があっても声を上げない
数字の達成が目的となり 顧客のため 社会のためという本来の目的が見失われ ついに思考停止に陥ったのではないか
と指摘されています
野中先生の理論によりますと
人間の本質は未来の共通善の実現に向かって他者とい真剣な対話を繰り広げながら 物事の意味と価値を創造する動的な主体である ととらえられていますから
そのモチベーションの源泉は 外的なインセンティブや罰則ではなく 内から湧き上がる内発的動機付けにあるはずです
前述の3つの過剰は 人間観を否定し 自律性を阻害するばかりか 仕事の目的や意味を見失わせる事態に現場を導いたのではないかと考えられます
日本軍の「失敗の本質」は 「過去の成功体験への過剰適応」というもので 日本軍は過去の成功パラダイムから抜け出せず
結果として組織内外の変化に対応する自己変革型組織になれず 敗戦してしまうことになった ということでしたが
組織には慣性の法則が働き 変化は嫌われます いわゆる「ゆでガエル現象」と言われるものです
日本軍もそうだったと言われていますが 不祥事を起こした企業でも同じことがあったと思われます
不正問題が起こったことを発見しても(野中先生のいわれるような)それに対応して素早く解決に向けて行動し
イノベーションを次々に生み出せる自己変革型組織が必要で 経営や人事には実践型リーダーの育成と配置が必要だと言われます
トップダウンマネジメントでは トップが理想を掲げ全体の方向性を出しやすいという利点がある反面 現場が指示待ちになるという短所があり
他方ボトムアップマネジメントでは 現場のモチベーションは向上し メンバー一人ひとりの力を引き出すことはできますが
大局観が失われる可能性があると言われています
かつての日本企業がそうであったような その両方の長所を生かし 相反する矛盾を超える知識創造を組織的にけん引するミドルアップダウンマネジメントが
提唱されています
これは 先生がお亡くなりになる直前のインタビュー記事のようですから それほど前の記事ではないと思われます
また先生ご自身 「懐古主義」を唱えていると思われることを懸念しておられたとも 言われています
私は 「いつまでそんなことを言っている」という批判を恐れて 考えることを棚上げしてきたという自覚がありますが
そのような批判の原因を深く考えもせず 嫌な思いをしたくないためだけで 思考停止をしていた自分を反省します